『推薦!香港映画』淪落の人(淪落人STILL HUMAN)112分

投稿者: | 2020年7月22日

お薦め度 ★★★★★★★★★★

「それでも人は、なお夢を描く」失意のうちにある二人が出会い、かげがいのない存在となり、そしてお互いの夢に向かって一歩を踏み出す。名優アンソニーウォン主演、フルーツ・チャン製作による秀作人間ドラマ。

↑予告編↑

作品情報

2018年製作 香港製作 ヒューマンドラマ

第38回香港電影金像賞 最優秀主演男優賞 最優秀新人監督賞、最優秀新人賞受賞

監督・脚本 オリヴァー・チャン 製作 フルーツ・チャン

出演 アンソニー・ウォン、クリセル・コンサンジ、サム・リー、セシリア・イップ、ヒミー・ウォン

夢を諦め、日々の苦しい生活に希望が見いだせないエヴリン。
出会った当初はお互いに不満しか感じない二人。

スタッフ・キャスト

監督・脚本のオリヴァー・チャンは2017年、第三回劇映画初作品プロジェクトでの企画が評価され、初の長編監督作となる本作の撮影資金を獲得する。本作で第38回香港電影金像賞新人監督賞を受賞している。

主演のアンソニー・ウォンは1985年に映画デビュー後、様々な作品の悪役などで注目を浴びていたが、1993年製作(八仙飯店之人肉饅頭)の鬼気迫る演技で香港電影金像賞主演男優賞を受賞。その後1998年製作のポリスアクション(ビーストコップ野獣刑警)で香港電影金像賞主演男優賞を二度目の受賞。その後1999年製作の(ザ・ミッション非情の街)などに代表される多くのジョニー・トー監督作品や、2002年製作の(インファナルアフェア)などで活躍中。

外国人家政婦役のクリセル・コンサンジは歌手、舞台女優として活躍する傍ら、テレビドラマなどで知名度を上げていき、本作にて映画初主演デビューを飾る。今後の活躍が最も期待できる注目株。

親友役のサム・リーは本作製作のフルーツ・チャンによって1997年製作(メイド・イン・ホンコン)の主演としてスカウトされ、大ブレイク。その後、2002年製作の松本大洋原作コミックの映画化(ピンポン)や2001年製作の日本・香港合作(無問題2)など、日本映画界との合作作品でも多く活躍している。

やがて二人に信頼関係が生まれます。
製作のフルーツ・チャンもゲスト出演。

あらすじ

突然の事故で半身不随となってしまったリョン・チョンウィン(アンソニー・ウォン)は、妻と離婚、息子とも離れて暮らし人生に何の希望も抱けないまま毎日を過ごしていた。

そんなある日、新人家政婦として外国人住み込み家政婦エヴリンがやって来る。

始めのうちは、広東語を話せないエヴリンに不満を募らせるチョンウィンだったが、月日がたち、その人間性に触れ、いつしか信頼関係が生まれるようになっていた。

そんなエヴリンには、実は写真家になるという夢があった。

しかし、今は日々の生活の事でせいいっぱいで夢の道は諦めるしかなった。

お互いにとって、かげがえのない存在となっていく二人。

いつしかチョン・ウィンはエヴリンの夢を叶えさせる手助けをしたいと思うようになっていた、、。

サム・リーはいつも優しく寄り添ってくれます。サム・リー名演技。

感想

香港映画界の名優アンソニー・ウォン主演の香港電影金像賞主演男優賞を獲得したヒューマンドラマです。

監督のオリヴァー・チャンが新人で製作予算も少ない作品でしたが、その製作意図と脚本の素晴らしさに感銘を受け、本作にはなんと、ノーギャラで出演しました。

理由があってのノーギャラですが、ノーギャラで出演した作品が香港アカデミー賞の主演男優賞を取ってしまうなんて凄い話です。

実際、本作でのアンソニー・ウォンの演技は素晴らしく、(八仙飯店人肉饅頭)の鬼畜役や、ジョニー・トー作品の渋い殺し屋や、チョウ・ユンファ作品などで演じていた粘着質な悪役と同一人物とは思えないぐらい、不幸な事故で過酷な状況となってしまった、庶民的な普通のおじさんを自然な名演技で魅せてくれます。

渋い殺し屋役も非常にキマっていて良いですが、本作のような絶望の淵にあって希望を無くしてしまいそうになるが、かけがえのない人との出会いで、もう一度自分なりの夢と希望を取り戻していくという難しい役柄の名演技で新しい代表作を獲得したのではないでしょうか。

それと新人クリセル・コンサンジのフレッシュながらも、過酷な状況にあって、涙を流しながらも、お互いを励まし、徐々に自分を輝かせる道へと進んでいくという、根っこにある折れない強さを持った主人公像を見事に演じていました。

親友役のサム・リーもデビュー当時のようなエキセントリックな役柄は年齢とともに落ち着いた役柄へと変わっていき、最近では目立たない役柄が多かったですが、本作に至ってはその落ち着いた演技で主人公の唯一信頼のおけるかけがいのない存在を見事に演じており、作品にとってもかけがいのない存在となっています。

香港電影金像賞助演男優賞にノミネートされたのも納得の名演技です。

本作の素晴らしい点はキャストの素晴らしさも勿論ありますが、その素晴らしさを引き出した物語展開にあります。

半身不随の主人公と広東語を話せない住み込み家政婦の物語、という設定はともすれば、重くて暗い物語になりがちです。

しかし、本作ではそんな暗さは一切ありません。

確かに、めげそうになったり、希望のない絶望感を感じている描写はありますが、それでも、本作においては絶望的な状況にあっても、その先にある希望が感じられるような優しさに満ちています

ですので、鑑賞していて暗い気持ちになったり、嫌な気分になったり、といったマイナス面の感情を感じる事なく物語にすっと引き込まれます。

これは、本作のオリヴァー・チャン監督の実体験をもとに書かれている脚本が大きく影響していると思われます。

自分では他の選択を選べないようなどうしようもない状況でも、心の中で抱く夢や希望は自分自身で選んで決定することができる。

どんな人でも、その人なりの夢を描き続ける事が大切。

という力強く、しっかりとしたメッセージが、物語冒頭では広東語をほとんど理解していなかったエヴリンがチョン・ウィンの優しさに触れ、チョン・ウィンのおかげで前向きになれたことによって、今度はチョン・ウィンが絶望した時に、チョン・ウィンに向かって広東語で発せられます。

このエヴリンが生きている外国人家政婦の世界についても、本作は香港映画としては初めてスポットを当てています。

外国人労働者が置かれている苦難や生活習慣について、エヴリンと、香港で出会った他の個性的な外国人労働者たちとの物語を通じて、彼らが、何を思い、何を夢見て、将来どのようになりたいのか、が描かれています。

このように、本作はキャストの名演技、名脚本、名演出によってじんわりと、しっかり伝わってくる秀作人間ドラマとなっています。

新人でこれだけの作品を残せる新人監督、オリヴァー・チャンは今後確実に活躍の期待できる大注目株ですので、今のうちに名前を覚えておいた方が良さそうです。

もしかしたら、ポン・ジュノ監督のように将来ハリウッドでのオスカー受賞などあるかもしれません。

という事で、重そうに見える本作ですが、実際は身構える事なく、非常に見やすい作品となっていますので、機会がありましたら、是非ご鑑賞ください。

エヴリンの夢に触れたとき、チョンウィンも再び希望を満ちだします。
木綿の綿は春になると飛び立ち至る所で根を生やしていきます。

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