お薦め度 ★★★★★★★★☆☆
その探偵は、他人の心の人格を見抜く力を持っていた!!ジョニー・トー監督の風変わりな演出が冴える犯罪心理サスペンス!!お薦めです!
作品紹介
2011年2月19日公開
今回ご紹介するのは、ジョニー・トー監督が盟友ワイ・カーファイと共同監督したサスペンス作品です。
それでは、まずはあらすじから、
張り込み中に刑事が疾走する事件が起きる。
その事件の担当となったホー刑事(アンディ・オン)は疾走した刑事の相棒だったコー刑事(ラム・カートン)が第一容疑者とにらみ、捜査を進めるが、捜査は進展しなかった。
そこで、かつて警察署内で伝説の存在となり、多くの事件を解決したが、精神を病んでしまい、現在は退職しているパン(ラウ・チンワン)に捜査への協力を依頼する。
類まれなる推理能力を発揮するパンだったが、彼には他人にはない、ある特殊な能力を持っていた、、!?
ジョニー・トー監督(あるいはトー監督の影響をモロに受けているワイ・カーファイ監督)の映像美学が炸裂した難解な設定の奇妙なサスペンス作品です。
難解なストーリー、というより辻褄はあえて合わせていないようなシーンが多くこの作品を難解にさせています。
この辻褄が合ってない部分が逆に本作の魅力を独特のものにしているのだと思われます。
まず、主人公がかなり風変わりです。
常に丈の短いズボンを履いている(お洒落な感じではなく)外見はもとより、犯人(容疑者)の内面を詳細に理解できる能力を持っていて、
その現場に行ったり、犯罪が行われた状況を口づてに聞くだけで、犯人を言い当ててしまったりします。
この辺の設定もなんとなく、曖昧で、ルールが良くわかりません。
そして、この主人公一番の特色として、他人の心の奥にある別な一面(人格)を表面的にそこに実在する別人物のように見る事ができる、という物凄い能力を持っています。
映像表現としては、外見上は良い人そうな小柄な女性に見えても、実は心の奥では腹黒くて荒っぽい一面を持っているなら、
その性格通りの一面を持っていそうな分かり易い荒っぽそうな外見の人物が、人の良さそうな本人の隣にスッと守護霊のように立っている、という表現です。
この発想は、漫画など(ジョジョの奇妙な冒険のスタンドのような感じですね)ではありますが実写の映像表現として登場するのは、ほとんど無かったのではないでしょうか。
あったとしても、バラエティのコントやコメディ作品の笑いの表現として用いられていたのではないでしょうか。
このパンの目を通して、容疑者(コー刑事)を見てみると、なんと、7人も別人格が共存している事が分かります。
そこから、邦題サブタイトルにあるように容疑者の人格を一人と数えて、容疑者が7人になる、というところからつけられた邦題サブタイトルかと思われます。
ちょっと強引ではありますが、、。
で、コー刑事自身が危機的な状況に陥ったときに、その状況に応じて、その状況にあった人格が前面にでてきて問題に対処する、という新しい多重人格の表現となっています。
ただ、またここでややこしいのは、映像表現的にコー刑事を演じる(ラム・カートン)だけが一人で映っているシーン(こちらの表現が作品内のパン以外の特殊な能力のない全ての登場人物が見ている常識的な表現)と、
実はパンにはこう見えている、という特殊能力目線の別人格7人が映っているシーンが交互に映るのですが、7人が映っているシーンには基本的ラム・カートン自身は移っていません。
ですので、ラム・カートン自身にはオリジナル的な人格がなく7人の別人格の集合体がラム・カートンになっている、と考えられますが、
この事件とは関係ない別人物の人格を表現する際には、その人物本人はしっかりと映っていて、そのとなりに別人格が立っている、という表現になっています。
この統一性のなさが、さらに本作を難解にしています。
さらに、パン刑事に捜査協力を依頼するホー刑事も後半、別人格が発動して、強そうに見えて実は内面には怯えた中学生のような少年がいる、
という新たな展開になっていきますが、このホー刑事の中学生表現では、なぜか、ホー刑事は画面に映らずに中学生だけが映ります。
その姿を特殊能力ではっきりと目視しているパンでさえ、『自分の前には怯えた中学生がいるだけでホー刑事は見えない。』と言っていますので、
この言動が、またさらに設定を難解にしてしまっています。
さらに、さらに、パンには別れた奥さんがいて、その奥さんは死んでしまっているが、パンには死んだ奥さんの姿が見えていて、
日々その他人には見えない奥さんと一緒に生活している、という踏み込んだ設定がプラスされています。
しかも、後半この奥さんにもある秘密がって、その秘密があるために、さらにややこしくなってしまっています。
この奥さんエピソードは主人公の精神的な危うさを表現するために設定されているような気もしますが、いろんな事の辻褄も合わなくなってきますので、なかなか難しいところです。
そんな感じで上演時間89分に難解になる要素がたっぷり詰め込まれていますが、お馴染みの複数の登場人物が一つのフレームに収まる絵葉書のようなジョニー・トーカットも沢山あり、
ラストの銃撃シーンはガラス張りの部屋で割れてガラスが散らばった状態で、それぞれのガラスの破片に別々の人格が写る、という物凄いカットも飛び出し、本作が紛れもないジョニー・トー印の娯楽作品であることを証明しています。
ラストの対決は、どことなくブルース・リーの(燃えよドラゴン)のラストの鏡張りシーンにもオマージュを捧げた(考えすぎ?)ような雰囲気もありますし、
ラストの落ちもちょっとダークな独特の終わり方となっていて、他の作品と一線を画する作品となっています。
という事で、本作の楽しみ方としては、辻褄を考え出すと、恐らくきっちりとした答えは出なさそうですので、
そこはスルーしつつ、この唯一無二の奇妙な設定の、奇妙な物語の雰囲気に身を委ねるような感じでミステリーを楽しむ、というのが正解ではないでしょうか。
上映時間短いので複数回鑑賞して、色々考えてみるのも良いかもしれませんね。
作品情報
2007年製作 香港製作 サスペンスアクション
監督・製作 ジョニー・トー、ワイ・カーファイ 脚本 ワイ・カーファイ
出演 ラウ・チンワン、アンデイ・オン、ケリー・リン、ラム・カートン、ラム・シュー、エディ・コー、フローラ・チャン
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