カンフー映画としてのお薦め度 ★★★★☆☆☆☆☆☆
香港で上映禁止となったジョン・ウー幻の初監督作品!!無頼と警官という立場の違う二人が、お互いの人間性に共感し合い、やがて共通の敵を倒すために命を懸けて戦いに挑む、という男の美学が既に確立されています!!
作品紹介
1974年7月公開
今回ご紹介するのは、世界的名匠となったジョン・ウーが香港ゴールデン・ハーベスト社で初監督したカンフー作品です。
それでは、まずはあらすじから、
無頼として生きるチェン(ユー・ヤン)は、地域を牛耳るロンが密輸入した拳銃200丁を強奪し、逆に金銭を要求しようとしていた。
そんな時、チェンは、上海警察からロンを操作するためにやって来たファン(ラウ・コン)と偶然出会い、その理想の高さに共感し合う。
共通の敵がロン、という事で利害の一致した二人の好漢は、お互いに協力し合いながらロンを追い詰めていく!?
ジョン・ウー監督の初監督作品です。
それまで老舗ショウブラザースでカンフー映画の巨匠、チェン・チェー監督の助監督として活躍していたジョン・ウーが、
新しく設立したゴールデンハーベスト社に招かれて撮影した作品ですが、(過客)というタイトルで製作したものの、
内容があまりに過激すぎる、という事で一旦上映が見送られ、その後再編集の末にタイトルを変更して公開された、という少々問題のあったデビュー作品です。
ただ、(過客)の方はソフト化されていませんので、どれだけ残酷なシーンがあったのかは分かりませんが、作品全体の雰囲気から、それほど過激な描写が存在していたような雰囲気もありませんので、
一旦公開を取りやめるぐらいの理由は他にもあったのではないでしょうか。
その後に監督した(ソルジャードッグス)も一旦お蔵入りした上に、その後不遇な時期に突入してしまいますので、ジョン・ウー監督とゴールデンハーベスト社との間の関係性があまり良くなかった、
というのが本作が一旦公開延期された原因のような気がするのですが、、。
というより、本作の公開を巡ってゴールデンハーベスト社との間でできた溝が修復できすに、結局会社を離れることになった、という感じでしょうか。
ただ、その不遇な時代があったからこそ、その後ツイ・ハークの招きでシネマシティ社で名作(男たちの挽歌)を製作する事になりますので、
ジョン・ウーにとっても、香港映画界にとっても、それはそれで結果的には良かったのではないでしょうか。
そんな一旦上映禁止になった巨匠のデビュー作ですが、本作はジャンルとしては他の多くの作品のように正義が悪を倒す、という勧善懲悪のカンフー作品となっています。
ですが、本作の売りは、無頼(ヤクザ)と警官、という立場の全く違う二人の男が、お互いの理念に共鳴し、悪逆非道の悪党、という共通の敵を倒すために命を炎を燃やす、
というその後のジョン・ウー作品に共通する男の美学が、このデビュー作で既に描かれている部分が注目の作品となっています。
また、本作はアクション監督を当時、陳元龍の名前でスタントマンとして活躍していたジャッキー・チェンが担当しています。
ですので、周りのチンピラ役などで、その後ジャッキー作品で大活躍していくような凄腕が入れ替わり立ち代わり、やられ役として登場します。
その面々ですが、画面に一瞬映る程度なので、判別しにくいのですが、一応確認できたスターでいうと、ます(ポリスストーリー)などで大活躍するマース、
サモ・ハンキンポー作品などの悪役で大活躍し、(霊幻道士2)や(キョンシー)(詳しくはこちら)などで事件の原因を作る役柄を演じていたチュン・ファット、
多くのサモ・ハン作品で活躍する事になるチャン・ユッサーン。
その他にも後に(クローサー)など女闘アクション作品などの監督として活躍し、ジェット・リー作品などでハリウッド進出も果たすコーリー・ユエンなども確認できます。
おそらく、ジャッキー自身もどこかで出てそうですが、顔が画面に映らないスタントシーンが多いので、全ては把握できませんでした。
その他の脇役としては、娼館のシーンで情けないイメージだけで登場し、後にシネマシティ社を設立するメンバーの一人となる(スネーキーモンキー蛇拳)などのディーン・セキや、
ユー・ヤンの弟分役で、アクション面で大活躍している(ウ・ミンサイの爆笑少林寺)(詳しくはこちら)などのウ・ミンサイ、
そして、悪役専門としてこの時期もその後も、ジャッキー・チェン作品や、(燃えよデブゴン7鉄の復讐拳)(詳しくはこちら)などのサモ・ハン作品で、
強烈な印象を残すフォン・ハックオンなど、そうそうたる顔ぶれが揃っています。
主演は(危うし!タイガー)のユー・ヤンで、無頼の世界に生きながらも、理想の美しいものを常に追い求めるロマンティシズム溢れる好漢を魅了的に演じています。
そのイメージは(男たちの挽歌)でチョウ・ユンファが演じたマークを彷彿とさせます。
ユー・ヤンと親交を温める警察官役に名脇役として活躍しているラウ・コン。
近年でも(ビーストストーカー証人)などで活躍中です。
この二人が中盤で出会って、お互いの理想に共感しあっていく過程が、物凄くロマンに溢れていて、非常にカタルシスを感じる展開に突入していきます。
この展開は、後に製作されるガンアクション映画の最高峰(狼/男たちの挽歌最終章)の引退を決意した心優しき殺し屋チョウ・ユンファと、
己の正義に忠実なあまり、完全に組織からはみ出してしまっている警察官ダニー・リーの関係性にほとんどそのまま受け継がれています。
特に本作の主人公であるユー・ヤンが、立場の違う警察官ラウ・コンに共感し、お互いの理想を語り合い、親交を深め、その後信頼のおける娼婦に自身の理想を語るシーンにそのロマンティシズムが爆発します。
無頼『あんたのような男が役人をやっているなんて、勿体ない』
『何故そんな無駄な人生を送るんだい?』
警官『それは違う、人は理想さえあれば、充実した人生を送ることができる』
無頼『でも、人生は短いんだ。一瞬を楽しく生きた方が良いだろう?』
警官『いや、理想を持って生き、何も成し遂げようとしなければ、生きている意味はない』
無頼『俺は常に美しいものを求めて生きている』
『美しいものさえあれば人生は豊かになる』
『それは美しい物、美しい風景、美しい女でも良い、でもこの世界に本当に美しいものなんてない』
警官『いや、ある。君がまだ、それに出会ってないだけだ』
その後、理想とすべき盟友になると感じたユー・ヤンは馴染みの娼婦に理想を語ります。
女性『この煙草からでるのが、煙じゃなくてお金だったら良いのに』
その言葉には答えずに、
無頼『犠牲をいとわず、理想を追い求める、それが究極の美というものだな』
女性『また、いつもの分けの分からない事言って!』
無頼『ははは、お前には分からんよ』
その後、お互いを盟友と感じた二人は、共通の敵を倒すために熾烈な戦いへと突入していきますが、ここでお互いの行き違いから、
単純に共闘へと入って行かないところが、また本作の捻りの効いた展開となっています。
できれば、(狼)のように一緒に戦うシーンが見たかったところですが、そこはジョン・ウーの師匠であるチャン・チェ監督作品のように、
後半は男の滅びの美学を追求したような展開になっていきます。
もう、ラストは男泣き必至です。
という事で、その後、多くのアクション作品で、男の美学を追求していくことになるジョン・ウー監督の原点となっていますので、
香港映画好き、アクション映画好きの方など、ご鑑賞されてみてはいかがでしょうか。
まさに、男泣き映画の原点です!
作品情報
1975年製作 香港製作 カンフーアクション
監督・脚本 ジョン・ウー 制作 レイモンド・チョウ 武術指導 ジャッキー・チェン
出演 ユー・ヤン、ラウ・コン、チャン・ナン、フー・チン、タニー・ティエン、ウ・ミンサイ、フォン・ハックオン、ティーン・セキ、シン・フイオン、チャン・ユッサーン、チュン・ファット、マース
その他のゴールデンハーベスト社カンフー作品
サモ・ハンキンポーが実在の英雄を演じたカンフー大作(燃えよデブゴン7鉄の復讐拳)はこちら
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