お薦め度 ★★★★★★☆☆☆☆
ジェイソン・ブラム製作、(ソウ)シリーズのリー・ワネル監督による透明人間映画を被害者側から描く新解釈サスペンス!!
作品情報
2020年製作 アメリカ・オーストラリア製作 サスペンスホラー
監督・脚本・製作総指揮 リー・ワネル 製作 ジェイソン・ブラム
出演 エリザベス・モス、オリヴァー・ジャクソン・コーネン、オルディス・ホッジ、ストーム・リード、ハリエット・ダイアー、マイケル・ドーマン
スタッフ・キャスト
監督のリー・ワネルはジェームズ・ワンと共に(ソウ)シリーズの脚本と製作総指揮を担当して注目を浴びた後に(インシディアス)シリーズでも脚本を担当。同シリーズ3作目(インシディアス序章)にて監督デビュー。その後、監督・脚本第二作(アップグレード)を経て本作が監督3作目にあたる。
主演のエリザベス・モスは1999年製作の(17歳のカルテ)、2012年製作の(オン・ザ・ロード)などで活躍した後、テレビシリーズ(ハンドメイズ・テイル侍女の物語)で主演と製作総指揮を兼ねてエミー賞とゴールデングローブ賞の主演女優賞と作品賞を受賞する。その後は2017年製作(ザ・スクエア思いやりの聖域)、2019年製作(アス)などで活躍する注目の実力派。
あらすじ
光学博士のエイドリアン(オリヴァー・ジャクソン・コーエン)の恋人であるセシリア(エリザベス・モス)は、ある夜、エイドリアンが寝静まっている隙に同棲中の豪邸から逃げ出す。
それに気づいたエイドリアンは鬼の形相で追いかけるが、途中迎えに来ていた妹のエミリー(ハリエット・ダイアー)の車に乗り逃げ切ることに成功する。
その後、友人で警官のシドニー(ストーム・リード)の家に匿ってもらい、新しい生活が始まる。
しかし、その日以来、ふとした事で誰かの気配を感じる日々が続き、やがてその違和感は周りの物が消えたり、動いたりと徐々に大きなものへと変わっていき、ついに周りの人を傷つけるにまでに至るのだった、、。
感想
透明人間映画の新解釈によるホラーサスペンスです。
ユニバーサルの古典的モンスターホラーといえば、(ミイラ再生)をリメイクしたトム・クルーズ主演の(ザ・マミー呪われた砂漠の王女)がありました。
製作当時【ダークユニバース】シリーズと銘打ってユニバーサルモンスターキャラクターをディズニーの【アベンジャーズ】シリーズのようにそれぞれ有名スターを起用してリメイクしていく、というプロモーション映像も流れて大いに期待できる企画でした。
ですが、実際公開してみれば、興行収入が想定外に低く、今後のシリーズ展開も十分な収益を望めないという事で、その後のシリーズ化が棚上げになってしまいました。
そもそも、2014年製作の(ドラキュラZERO)の時点から【ダークユニバース】の構想はあったようですが、上手くいかずに(ザ・マミー呪われた砂漠の王女)で仕切り直し。
しかし、それも上手くいかずにまた、仕切り直しとなり、本作では有名なユニバーサルモンスターを題材とした作品ですが、【ダークユニバース】とは無関係の独立した作品として製作されています。
そのため、逆にリー・ワネル監督の自由度が高く、それまでのリー・ワネル作品の流れをくむような物語展開となっています。
その物語については、(ソウ)、(インシディアス)のリー・ワネル監督作らしい、従来の透明人間ものと比較するとかなり新解釈ともいえるような描き方になっています。
まず、本作は透明人間目線の物語ではなく、被害者側から描く形で物語が展開されます。
ですので、主人公は完全にセシリア側となっています。
そのため物語としては余計な要素はそぎ落とし、主人公セシリアが、いかに悩まされているストーカーと対峙するか、という部分をメインにシンプルに描かれています。
しかも、そのストーカーが透明人間だったら、、という発想の物語です。
透明人間を扱った作品としては、かなり大胆な設定だと思います。
その思い切った設定を取り入れた事で(ソウ)、(インシディアス)のリー・ワネルお得意の、主人公がジリジリと、とことん追い詰められていって、限界近くで大反撃する、といった流れに分かりやすく繋がっていきます。
そこに何かいるかもしれない、という息をのむシーンはリー・ワネルの過去作でも多くありましたので、もう独壇場といった感じです。
エリザベス・モスの熱演とリー・ワネルのツボを押さえた演出の相乗効果で、観ている側も主人公と同じように逃げ出したくなるような展開になっていきます。
今までの、特に(インシディアス)などのリー・ワネル監督作品では基本的に敵は人間以外のゴーストでしたので、そこに正体不明の何かがいるかもしれない、というお得意の演出は日本のJホラーを見ているときのような恐怖を感じました。
そこで本作の場合、大胆な設定を採用していますので、透明人間はあくまで主人公を悩ませる敵キャラクターとしてのみ存在していますので、他の透明人間ものにあったような透明人間本人が透明になっていくときの高揚感や、そこで生じるようなサスペンスとしては従来のリー・ワネル監督作品と比べて薄くなっています。
見ている観客側も、主人公も、ゴーストなどの正体不明の存在ではなく、見えていないだけで正体の分かっているストーカーがそこに確実に存在していると思って観ていますので、恐怖の質は(インシディアス)などと違ったものとなっていました。
しかし、そういった透明人間側のサスペンス描写を排除している反面、今から、近い未来に、知人である加害者になんらかの危害を加えられるけれども、それが何時なのか、そして何をされるのかわからない、という違うタイプの新たな恐怖が発生しています。
これは、なかなか今までになかったタイプの恐怖演出で、正体がはっきり分かっていて、そこに確実に存在している、と分かっているがために生じるサスペンスです。
透明人間ものなのに完全に被害者目線で、加害者側については後半までほとんど描かない、というリー・ワネル監督の新解釈によって生み出された新しいタイプのサスペンス描写です。
そういう作品ですので、本作のリー・ワネル新解釈版透明人間は、観る人によって違う感じ方をするタイプの作品かと思います。
人間的なリアルなサイコサスペンスや主人公が追い詰められていくようなハラハラドキドキする物語がお好きな方はその変化球ぶりにハマれる作品となると思いますが、
逆に、得体のしれない存在と対峙するようなゴーストホラー系が好きな方はもしかしたら、ノリきれない部分があるかもしれません。
賛否両論あると思いますが、ホラーの古典的な題材を新しい才能が、新しい解釈で描き切った、秀作サスペンスホラーとなっています。
暑い季節に適度な恐怖で、ちょっとした涼しさを感じるにはもってこいの作品となっていますので、機会がありましたらご鑑賞ください。
↓透明人間を扱ったポール・バーホーベン監督の名作(インビジブル)シリーズはこちら↓https://ei-ga.net/%e3%80%90%e3%82%b7%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%82%ba%e4%bd%9c%e3%80%91%e3%82%a4%e3%83%b3%e3%83%93%e3%82%b8%e3%83%96%e3%83%ab%e3%80%80%e3%82%b7%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%82%ba/
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