おすすめ度 ★★★☆☆☆☆☆☆☆
三世代の女性を襲う祖母の老い自体を、正体不明の恐怖として描いた雰囲気重視の恐怖映画!!
作品紹介
2021年8月19日公開
今回ご紹介するのは、三世代の女性を襲う老い自体の恐怖を描くホラー作品です。
それでは、まずはあらすじから、
行方不明になった森に囲まれた家でひとり暮らしをする祖母を捜索するために、急遽現地を訪れた娘のケイ(エミリー・モーティマー)と孫娘サム(ベラ・ヒースコート)は、
森の中で認知症に苦しむ祖母エドナ(ロビン・ネビン)を発見するが、祖母は以前とは別人のようになっており、
何かが家に侵入してくる、と訴えるのだった!?
【老い】そのものを恐怖の対象にしたホラー作品です。
全米興行収入3週連続1位の大ヒット、とのことですが、残念ながら日本では単館のみで公開された作品になります。
因みにピーター・ハイアムズ監督のモンスター・ホラー(レリック)とは無関係の作品です。
本作の日系人監督であるナタリー・エリカ・ジェームズ監督が久々に祖母に合いに日本を訪れたら、別人のように変わっていた、
という実体験をもとに製作されたリアルな要素も含むホラー作品となっています。
【老い】や認知症そのものを題材にする、という事で思い出されるのはアンソニー・ホプキンスがアカデミー賞を受賞した傑作(ファーザー)や、
著名なベテラン探偵が、【老い】による自身の記憶力と戦いながら、最後の難事件を解決する傑作ミステリー(Mr.ホームズ名探偵最後の事件)等が思い出されますが、
本作はそういったアカデミー賞系の感動ドラマ作品や重厚なミステリー作品ではなく、その題材をホラー作品にアレンジする、というかなり踏み込んだ内容の作品となっています。
ただ、監督の実体験に基ずく話ではありますので、奇をてらったようなB級作品ではなく、【老い】を正体不明の恐怖の対象として、
暗闇からじりじりと迫りくる何かのように、じっくりと描かれていきます。
祖母が奇怪な行動を見せつつも、家の中に侵入してくる何かに怯えている描写が並行して描かれていきますので、
その祖母が怯える何かの存在が、【老い】や認知症によるものなのか、本当の現実何かなのか、はっきりと明示されないままにじっくり、ゆっくり物語が進んで行きます。
このじんわりと迫りくる恐怖感は、Jホラーの雰囲気にに似ていて、はっきりとしたモンスターホラー的な要素が多い他のハリウッドホラー作品とは一味違った作品となっています。
ただ、本作はその正体不明の存在をはっきりと見せる事なく、じっくり描いていく雰囲気重視の作品ですので、
終始暗い画面の静かなシーンの連続の多い作品となっていて、目立った物語の起伏のないままに祖母の認知症状を見続ける、
というホラー作品としては、ギリギリスリラー要素を保っている状態が長いため、そこで緊張感が途切れてしまう人もいるかもしれません。
ただ、扱っている題材が題材だけに、そこをドラマチックに誇張してしまうと一挙に現実味が無くなってしまいますので、
この題材を扱ったホラー作品である以上、このゆったり感は、仕方がなかったのではないかと思われます。
ただ、このゆったり感、後半一挙に展開していきます。
※ここからは、重要な展開に触れていますので、真っ新な状態で作品を鑑賞したい方は注意してください※
中盤で孫が、祖母の部屋の押し入れ(のような扉)から中へ入ってみると、その先は迷路のようになっていて、
しかも進むたびに通路幅が狭くなり、上下もおかしくなってくる、という現実のような幻覚のような展開になっていきます。
ただ、扉を叩くと他の部屋にいる母親に音が聞こえたり、母親とやり取りする声は遠くの方に聞こえたりするので、
完全に幻想の世界という感じでもなさそうです。
現実と幻想の境目といった感じでしょうか。
で、孫娘が悪夢の迷宮に迷っている頃に、祖母がついにある決定的な変化を遂げることになります。
そこまでを書いてしまうと完全に楽しみがなくなってしまいますので、割愛しますが、そこはやっぱり欧米で育った監督、
といった感じで、闇の恐怖を闇のままで終わらせることはせずにはっきりとした形にします。
ただ、それに対する説明自体ははっきりされませんので、観る人の捉え方で、色んな解釈ができるような結末となっています。
本作のような流れの作品は本人にしか見えない何か、は他人には信じてもらえずに、結局最後には事実だった、
という展開が多いですが、本作はある程度はっきりとは描きつつも、あえて説明は省く事で、含みを持たせた考えさせられる作品となっています。
賛否別れそうな結末ですが、ラストシーンはなんとなく、じんわりと感情を揺さぶられたりするシーンになっていますので、
おそらく監督の中で、そのラストシーンのヴィジョンは最初からあって、そこに行きつく物語を逆算で創造していったのではないでしょうか。
個人的な勝手な邪推ですが、、、。
また、【老い】という恐怖に対する三世代の女性を演じるキャストもそれぞれが名演技で、時に切なく、時に恐怖を感じさせる祖母、
今まであまり世話をしてこなかった事に負い目を感じて、受け入れて悔い改めようと努力する娘、
変わり果てた祖母をただただ孫として気の毒に感じている心優しい孫、
とそれぞれが、それぞれの立場で【老い】という恐怖に迫真の演技で対処しているのも見どころとなっています。
特に祖母役のロビン・ネビンの普通に会話していたと思ったら、その直後に急に狂気が宿る表情の変化は、
そばいれば、恐らく恐怖を感じてしまいそうになるぐらいの迫真の演技ですので、作品の説得力を大いに高めています。
また、ナタリー・エリカ・ジェームズ監督は、本作が初監督ですが、女性監督らしく3世代の女性の心理描写が繊細に描かれていますので、
今後女性を主人公とした別ジャンルの作品等でも大活躍するのではないでしょうか。
という事で、前半ゆったり、後半急展開、結末の解釈は観た人次第、という展開ですので、誰もが楽しめる娯楽作品というわけではありませんが、
独特の雰囲気と魅力を持った作品となっていますので、変わったホラー作品を鑑賞したいといった方等、ご鑑賞されてみてはいかがでしょうか。
作品情報
2020年製作 オーストラリア・アメリカ製作 ホラー
監督 ナタリー・エリカ・ジェームズ
出演 エミリー・モーティマー、サラ・ヒース・コート、ロビン・ネビン
その他の変わったホラー作品
多くのホラー作品にリスペクトをささげたジェームズ・ワン監督の傑作(マリグナント凶暴な悪夢)はこちら
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