ルース・エドガー(LUCE)110分

投稿者: | 2020年6月24日

お薦め度 ★★★★★★☆☆☆☆

スターの原石発見!アメリカの理想と現実をリアルにえぐる、実力派キャスト勢ぞろいのヒューマンサスペンス。

作品情報

2019年製作 アメリカ製作 サスペンスドラマ

監督・製作・脚本 ジュリアス・オナー 原作戯曲・脚本 J・C・リー

出演 ナオミ・ワッツ、オクタヴィア・スペンサー、ケルヴィン・ハリソン・Jr、ティム・ロス

ルースは誰もが羨む優等生

スタッフ・キャスト

監督のジュリアス・オナーは(クローバーフィールドHAKAISHA)の続編である(クローバーフィールドパラドックス)が好評だったため、本作の舞台版原作戯曲(LUCE)の映画化が実現した。

主演でルースの母親役のナオミ・ワッツは(タンク・ガール)で注目を集めた後、デビッド・リンチ監督の(マルホランドドライブ)にてブレイク。その後(キングコング)、(ザ・リング)等順調にキャリアを重ね(インポッシブル)、(21グラム)でアカデミー賞にノミネートされた。

ルース役のケルヴィン・ハリソン・jrは(マッドバウンド哀しき友情)で注目を浴び、続く(イット・カムズ・アット・ナイト)でゴッサムインディペンデント映画賞のブレイクスルー賞にノミネートされた。その後本作への抜擢と次回作に(WAVESウェイブズ)が控えている。

ルースと揉める教師役のオクタヴィア・スペンサーは多くの端役で活躍してきたが(ヘルプ心がつなぐストーリー)でアカデミー賞、ゴールデングローブ賞など多くの助演女優賞を受賞。その後は(ドリーム)、(シェイプ・オブ・ウォーター)など多くの話題作でメインキャストとして活躍している。

ルースの父親役のティム・ロスはクエンティン・タランティーノ監督作(レザボアドッグス)、(パルプフィクション)でブレイク後(海の上のピアニスト)、(インクレディブルハルク)、(コッポラの胡蝶の夢)など多くの有名監督作品で印象的な役柄を演じている。

スピーチコンテストでも賞賛される

あらすじ

バージニア州アーリントンで暮らす高校生ルース・エドガー(ケルヴィン・ハリソンjr)は文武両道に秀でており、周りの友人などにも慕われる明るい高校生。

しかし、ある日同じアフリカ系の女性教師ウィルソン(オクタヴィア・スペンサー)が授業で出した課題のレポートについて過激思想を持っている疑いを懸けられ、以後それが原因で対立する事になる。

養父母である白人夫婦エイミー(ナオミ・ワッツ)とピーター(ティム・ロス)は幼いころにアフリカの戦火の地で過酷な経験をしながらもアメリカでその心のトラウマを克服した愛する息子を信じてやまないが、ある事件をきっかけに信頼が揺らぐ事となる。

はたしてルースは皆が羨むような優等生で優しい心を持った少年なのか?

それとも危険思想を持った攻撃的な怪物なのか、、?

息子の晴れ姿に感動の両親

感想

物凄く見ごたえのある人間ドラマでした。

アフリカ系アメリカ人の問題に真正面から向き合った内容ですので、実際に日本人がその問題の本質を全て理解するのは難しいとは思います。

ですが、本作は黒人であるというだけで、ふとした事で危険思想を持っているのではないか、と嫌疑をかけられたり、暴力的な事件を起こすのではないかと疑われたりする日常、生活するうえでの問題を素晴らしい演技力を持ったキャストが非常にリアルに、またサスペンスフルに演じているため、誰もが物語世界に入り込める作品となっています。

本作はよくあるような怪しい主人公が急にキレて大げさな行動をとったり、銃を構えて撃ち合ったり、などのエンターテイメント的な展開はほとんどなく、あくまでリアルな人間ドラマとして最後まで描き切っています。

ですので、そういった系統のカタルシスやストーリー上のケレン味的なものはほとんどありません。

しかし、ルースと教師の息詰まるやり取りや、過酷な過去を克服してきたルースを大きな愛で包んでいたはずの母親の苦悩、そしてルースの思春期という時期に自分自身のアイデンティティーと周りの期待との間で揺れ動く心の動き、など、それぞれのシーンで共演者たちの名演技が光る秀作人間ドラマとなっています。

ベテラン3人の演技力は勿論素晴らしいですが、やはり主役のルース役を演じているケルヴィン・ハリソン・jrの存在感は本作一番の収穫ではないかと思います。

実際本当に前半では文武両道の優等生に見えます。

ここまではよく見かけるキャラクターで、見た雰囲気のまま、といった感じです。

しかし、危険思想を持っている嫌疑がかけられるあたりから、絶妙に「もしかしたら、、。」とふと思わせるような表情をほんの少しだけ感じさせます

この匙加減が非常に素晴らしく、わざとらしい怪しさでは決してなく、ほぼ98%優等生で間違いないけど残りの2%で「もしかしたら、、」とほんの少しだけ思わせるような絶妙の演技です。

そして、色んな要因が重なっての本作のラスト、ルースは非常に印象的な表情で終幕となります。

この表情もそれまでの物語では決して見せなかったような表情でルースというキャラクターの見せていなかった一面がうかがい知れる名シーンとなっていました。

こちらのラストシーンも必見です。

鑑賞後に、「あの表情はどうとらえるべきか?」と、色々考えてしまうような余韻を残す表情です。

ケルヴィン・ハリソン・jr以外の人が演じていたらこの雰囲気は出せなかったのではないでしょうか。

まさにスターの原石発見

今後、確実に唯一無二の存在になっていきそうで今から楽しみです。

というように、それぞれの名演技の相乗効果によって本作は人間ドラマの秀作となっています。

正直なところもっとエンターテイメントな物語だと思っていたので思っていた内容と違う感じではありましたが、逆にこの重厚な人間ドラマはお金を払って観る価値のある作品だと思います。

決して気軽に観れる作品ではありませんが、非常に見ごたえのある作品となっていますので機会がありましたら是非ご鑑賞ください。

やがてルースの心の内が明らかになっていく、、。

コメントを残す