おすすめ度 ★★★★★★☆☆☆☆
ジョニー・トー監督の呼びかけの下、香港映画界を支えてきた七人の映画監督が、年代ごとに懐かしき香港を描いた、胸にじんわり染み入るオムニバスドラマ!!古くからの香港映画ファン必見です!!
作品紹介
10月7日公開
今回ご紹介するのは、ジョニー・トーの声掛けの下、7人の香港を代表する映画監督が香港の懐かしき時代を描いたオムニバス作品です。
それでは、それぞれの短編ごとにご紹介させて頂きます。
〇稽古(练功EXERCISE)
監督 サモ・ハンキンポー 出演 ティミー・ハン
1950年代、ある建物の狭い屋上で、子供達に武術を指導する厳しい師匠。
親から預けられた子供達は、厳しい訓練の中で、なんとか、さぼろうとするが、見張り役の少女が居眠りしてしまったせいで、師匠を激怒させることになる。
サモ・ハンが自身の体験を基にしたエピソードを、自身が監督し、息子であるティミー・ハンが師匠役を演じた作品です。
訓練中にさぼっていて師匠に怒られる、というだけのエピソードですが、登場する子役たちの動きが素晴らしく、
映画で見かけるような技が多数登場し、その技それぞれに、ちゃんと名前が付いている、という興味深い事実も知れる貴重なエピソードです。
しかも、その技の名前がしっかりとその後のエピソードにも関係してくる、という短編ながらも流石に香港映画界のドン、サモ・ハンといった感じの作品となっています。
最後にはスペシャルゲストが、、、。
〇校長先生 (校长HEADMASTER)
監督 アン・ホイ 出演 フランシス・ン、サイア・マ
1960年代、ある学校に勤務する勤勉な校長の下、若く誠実な教師達が集まっていた。
特に英語の教師を務めるウォン先生は、心根も優しく、どんな生徒にも親身になって指導していた。
そんなウォン先生を、手の付けられない悪ガキ三人衆も慕っていた。
そして2001年、中年となっていた悪ガキ三人衆は、同窓会を催し、恩師である校長とウォン先生の話に花を咲かせる。
先生との出会いが、そのまま人生の師との出会いになる、という教師という職業が今よりももっと威厳があり、
先生も自分の個人的な想い等を、世間体からあまり表に出す事が良いとされなったような時代を描いた作品です。
フランシス・ン演じる校長は、凄く勤勉で、食事時にも何か書物を読みながら(ただ単に行儀が悪いようにも見えますが)口に食べ物を入れる、
というぐらいに勤勉で、そんな校長を他の教師達も慕っている、という人間関係が微笑ましいエピソードです。
そんな真面目(にも程がありますが)な校長を慕う教師の中に、英語教師のウォン先生がいて、影から支えてくれていたりまします。
なんとなく良い雰囲気なのか?という感じがしますが、そこを進まないのが、恐らくこの年代の特徴で、
対面のある校長も、とにかく個人的な想いは表に出さずに、ただただ真面目に子供達を指導する、という生活が続きます。
で、時代は流れて2001年、当時世話になった悪ガキたちが集まって、思い出話に花を咲かせていると、当時のウォン先生の話になります。
あの世話になった先生は今どうしているのだろう?
高齢の校長の下を訪れた悪ガキ三人衆、当時の自身の心の内を思い出す校長、ウォン先生は、、、、
ドラマ映画の名作の多いアン・ホイ監督のしんみり泣けるエピソードです。
因みにウォン先生役を演じているサイア・マは、2008年のミス香港で、ジョニー・トー監督の(ホワイトバレット)や、(西遊記 女人国の戦い)にも出演しています。
〇別れの夜 (别夜TENDER IS THE NIGHT)
監督 パトリック・タム 出演 ジェニファー・ユー、イアン・ゴウ
1980年代、高校生男子のカーラムと女子のガンフェイ。二人は恋人同士だったが、ガンフェイは明日、両親と共にイギリスに引っ越す事が決まっていた。
別れの失意のあまり、カーラムは突如姿をくらましてしまう。
しかし、どうしても会いたいガンフェイは、なんとかカーラムを呼び出し、出会った時の事を思い出し、涙ながらに訴えかけるのだった。
80年代には既に、1997年の香港の中国返還を見越して市民の移住が始まっていたようで、そこには多くの人に別れがあった、
という事実を、高校生カップルの目を通して描いた作品です。
多くの人が移住していますので、勿論、こういう事もあるとは思うのですが、個人的には、こういう題材(物語)は、短編で描くには、二人の背景が見えないとなかなか感情移入しにくい題材だと感じてしまいました。
いきなり(というか最初から最後まで)ヒステリックに求め続ける彼女と、(最初から最後まで)逃げ続ける彼氏による、感情がほとんどマックスに近い別れ話、
という、そこに至るドラマを知っていないと、感情移入の入り口が見つからないような、物語(というより喧嘩話)が延々と続きます。
彼女役のジェニファー・ユーは凄く熱演しているのですが、引っ越しによる別れに、彼氏は既に気持ちを整理してしまっているのですが、去る方の彼女はそれを受け入れられない、
という状況自体は見てすぐ理解できるのですが、幸せだった日々を描く事もなく、気持ちの整理がついている彼氏が、どれほどつらい気持ちの切り替えの末に整理をつけたのかも描かれないので、
映像で見る限りは、ただの冷血漢に見えますし、同じく幸せだった日々が描かれないので、彼女が彼氏を想っていた程度も、分からないので、
映像で見る限りはヒステリックにキレている何をし出すか分からない精神的に不安定な女子に見えてしまったりもします。
上映時間の都合で、いきなりクライマックスシーン、という感じですので、盛り上がる部分だけを抽出しているのですが、やっぱり知らない他人の喧嘩に見えてしまいました、、。
因みに主演のジェニファー・ユーは、本作以外には、本作(校長)にも出演しているフランシス・ン主演の(逆流大叔)というボートレース映画にも出演し、
香港アカデミー賞で、最優秀助演女優賞にノミネートされる程の演技力の持ち主です。
さらに、逃げ腰の彼氏を演じたイアン・ゴウは、本作のパトリック・タム監督、アーロン・クォック主演の傑作人間ドラマ(父子)で9歳にして台湾と香港の最優秀助演男優賞を受賞するという元天才子役で、
本作で16年ぶりにスクリーン復帰を果たしています。
という事で、主演の二人の名演技ぶりが堪能できる作品となっています。
〇回帰 (回归HOMECOMING)
監督 ユエン・ウーピン 出演 ユン・ワー、アシュリー・ラム
1997年、香港の中国返還を前に集合住宅で独りで暮らすお爺ちゃんの下に、家族で海外に移住する息子一家の娘(お爺ちゃんの孫娘)が、やってくる。
一時的に共同生活をすることになったお爺ちゃんと孫娘チューは、世代の違いから、会話も上手くかみ合わなかったが、
なんとか、お互いに合わせようとしていた。
そんな時、街で孫娘が暴漢に襲われそうになっている所に通りかかったお爺ちゃんは、得意のカンフーで軽く撃退してしまうのだった。
その日以来、お爺ちゃんに心を開いたチューは、英語を教えてあげる代わりに護身術を教えてもらう事になる。
カンフー映画の名匠ユエン・ウーピン監督、カンフーレジェンド、ユン・ワー主演による世代を越えた家族の交流を描いた心温まる作品です。
しっかりとリアル系のカンフーシーンも描きつつ、愛嬌のあるお爺ちゃんを演じたユン・ワーの名演技が光ります。
(サイクロンZ)や、(タイムソルジャーズ)で悪役を演じていた時は、まさかこんな優しいお爺ちゃん役が似合うようになるとは思ってもみませんでした、、、。
ユエン・ウーピンも(妖怪道士)(詳しくはこちら)シリーズのような少年漫画チックな作品を監督していた時期には、本作のような、しんみり温かいドラマを製作できるとは、、、
という分かりやすく、世代を越えて温かくなれる名編です。
また、孫娘役を演じているアシュリー・ラムは2016年にデビューしたてで歌手、俳優、モデルとマルチな才能を発揮していますが、
映画出演一作目のアンディ・ラウ主演(热血合唱团)が好評だったようで、次世代のスター候補の一人となっているようです。
こちらはアンディ・ラウ主演なので、日本でも公開、、、するでしょうか、、。それにしても凄いタイトルですね。
〇ぼろ儲け (遍地黄金BONANZA)
監督 ジョニー・トー 出演 ン・ウィンシー、トニー・ウー、エリック・ツイ
2000年、ある食堂で、投資で利益を上げようとする男女3人が話し合っているが、それぞれの意見がまとまらずに結局買わずじまいの株価が、
見る見るうちに騰がってしまい、買い時を逃してしまう。
2003年、今度は不動産投資で利益を上げようとした3人は、仲介業者の進める物件を検討するも、SARSの影響で値下がりしてしまい。結局投資できずに終わってしまう。
2007年、ついに中国本土との株式直接取引が開始され、いよいよ買い注文を出すが、、、
本オムニバスの発起人でもあるジョニー・トーの久々の監督作品です。
内容としては、2011年の監督作(奪命金)の中の一篇、という感じで、株取引に熱中する若者3人を軸に、
2000から2007年までの世界や香港で起きた出来事を、それにつられて上下する株の値動きによって表現する、
という(奪命金)のジョニー・トーらしい作品となっています。
株取引の駆け引きだけだと会話劇中心(というか会話のみ)で、儲かるか、損するか、横ばいか、しかないので、ドラマにもなりにくいですが、
主題はその値動きの流れによって時代の流れを表現する、という構成になっていますので、株の儲け話を聞いているうちに、
いつのまにか香港(を中心とした世界)で起きた出来事を、なんとなく理解できる、という短い上映時間を上手く使った作品となっています。
ただ、娯楽要素は低いので、あくまでオムニバスの一篇だからこそ表現できた作品、という感じでしょうか。
また、3人のうち一番目立っている女性を演じているン・ウィンシーは、本作出演のアシュリー・ラムのデビュー作でもある(热血合唱团)や、
同じくアンディ・ラウ主演の(バーニングダウン)(詳しくはこちら)等にも出演しています。
〇道に迷う (迷路ASTRAY)
監督 リンゴ・ラム 出演 サイモン・ヤム、ミミ・コン、ロイス・ラム、チュン・キンファイ
2018年、正月を妻と息子と過ごすために香港に里帰りしてきた男は、香港の街並みが、昔とは様変わりしている事に驚き、
待ち合わせ場所までたどり着けずにいた。
スマホに息子が送ってきた地図を頼りに、待ち合わせ場所に向かおうとするが、そこまでの行き道も分からず、
昔父親に言われた事を思い出し、昔の香港に想いを馳せるのだった。
2018年に亡くなった、(友は風の彼方に)や(ワイルドシティ)(詳しくはこちら)等の名匠リンゴ・ラム監督による遺作となってしまった名編です。
道に迷ってしまうサイモン・ヤム演じる父親の目を通して、常に姿を変えていく香港の街の移り変わりを描いています。
確かに、香港、常にどこかで目立つ工事が行われていて、旅行などで訪れる度に道や建物が変わっている、というイメージでしたが、
昔の世代の方にとっては、その移り変わりのスピードについていけない、という方も多く存在しているようです。
そういえば、ジョニー・トー監督も(スリ)を撮影したときの理由として、移りゆく香港の街並みが、完全に様変わりしてしまう前に、
街中の建物等が映りこむ、街中を舞台にした物語を創りたい、という理由で、街中でしのぎを削るスリチームの物語を思いついた、という事をインタビューで語っていました。
それぐらいに現地の人々にも、それで良いのか?と思う気持ちもある反面、そんなに広い土地が広がっている地域ではない香港が、
発展していくには、古い物を常に新しく作り替えていく、という方法しかないのも事実ですので、本作のサイモン・ヤムのような世代の人々には暮らしにくくなっている面があるのかもしれません。
そんな思いが、サイモン・ヤムとリンゴ・ラム監督によって、しんみりと表現されている作品となっています。
〇深い会話 (深度对话CONVERSATION IN DEPTH)
監督 ツイ・ハーク 出演 チョン・ダッミン、チョン・カムチン、ラム・シュー、ローレンス・ラウ
未来の世界、ある精神科医院の白い部屋で、患者と担当医師が会話をしている。
医師は患者に『質問をするので、返答は3秒以内に回答するように』と言い終わるや否や、患者は『アン・ホイ』と答える。
質問を想像して先に回答を述べているようで、会話はかみ合わない。
そんなやり取りを、隣の部屋のガラス越しに見ている二人の医師が注意深く観察していた。
ラストを飾るのは、【香港のスピルバーグ】事、ツイ・ハーク監督作品です。
本作でも一番有名スターが登場する物語で、香港映画らしい笑いの中に、どんでん返しあり、楽屋落ちあり、というツイ・ハークの自由な発想が炸裂するコメディ作品となっています。
あまり詳しくは書けないような内容ですが、短編という短い上映時間を上手く利用したどんでん返し自体を笑いに変えた娯楽編となっています。
流石数々のブームを作って来たツイ・ハーク、という感じの作品となっています。
という感じで、それそれのレジェンド監督が自由な発想で、長編作品では描けないような内容の作品を描いた、しんみりと心に残る名7エピソードとなっていますので、
古くからの香港映画ファンの方も、アジア作品好きの方も、是非ご鑑賞してみてください。
作品情報
2021年製作 香港製作 オムニバスドラマ
監督 サモ・ハンキンポー、アン・ホイ、パトリック・タム、ユエン・ウーピン、ジョニー・トー、ツイ・ハーク、リンゴ・ラム
出演 サイモン・ヤム、ラム・シュー、ローレンス・ラウ、ツイ・ハーク、アン・ホイ、ティミー・ハン、ユン・ワー、フランシス・ン、ジェニファー・ユー、チョン・タッミン
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