カンフー映画としてのおすすめ度 ★★★★★★☆☆☆☆
真面目な武術家が、争い事の末に信頼関係を結んだ武術家のために横暴なロシア人レスラーと激闘を繰り広げる、(イップマン序章)の原点とも言えるような、まさに武術映画の王道作品!!
作品紹介
1983年11月21日公開 (中国新作フェスティバルにて公開)
テレビ放映題 必殺カンフー八方拳
今回ご紹介するのは、(イップマン序章)の原型とでも言えるような八卦掌を取り扱った作品です。
それでは、まずはあらすじから、
ある街に、武芸を見せて生計をたてるトン一家が越してくる。
その街の大通りで、いつものように武芸を見せていたが、それを心地よく思わない近隣道場の門弟が勝負を挑んでくる。
圧倒するトンに、その門弟の師匠であるハーターハイにも勝負を挑まれるが、事をおさめるために、トンはあえて勝利を譲るのだった。
しかし、その実力を見抜いたハーターハイは、トンの武芸の実力と人柄に、惚れ込んでいく事になるのだった。
(イップマン)(詳しくはこちら)の原型と言っても良いぐらいに後半の物語展開がそっくりな(八卦掌)を取り扱ったカンフー作品です。
出演者は、(侠女十三妹)等の日中合作作品出演作品のあるのリー・ジュンフォンを始め、当時の北京武術隊の選手たちでキャスティングされていて、
それぞれのシーンで本格的な武術アクションシーンが楽しめます。
開幕早々に、主人公一家がある街にやってきて、その街角で、武術の腕前を披露して日銭をかせぐ、というシーンから始まります。
この武術シーンが、いきなりの超絶技の連続で、主人公は当然としても、奥さんや幼い娘さんまでが、全員武術家、
という武術一家で、特に幼い娘さんが魅せる超絶キレのあるカンフー技の数々は、本編でその腕前が活かされないのが残念なぐらいに見事な技となっています。
いきなりの見せ場ですが、通常の香港製のカンフー作品ですと、こういうシーンでは色んな表現で娯楽映画要素を高めていきますが、
本作では、本物の武術家が出演しているため、そういう小細工的な演出は極力排して、じっくりと描くという手法で描かれていますので、
それぞれのシーンが、独特のゆったりとした間を取って、武術シーンはしっかりと見せ切り、人物同士の会話シーンも、他の作品のテンポより、じっくりと間を取るようなタイミングで会話劇が展開されていきます。
そのため、全体を通してゆっくり、じっくりといった印象の作品で、バトル時の効果音や、BGM等での盛り上げも極力無くしていますので、
主演のリー・ジュンフォンのイメージも伴って、地味な印象を受ける作品となってはいますが、鑑賞を進めるうちに、
その余計な要素を廃した静かな雰囲気の作品の中から、純粋な武術映画としての熱い魅力にいつのまにか気付かされる、という独特の作品となっています。
その魅力の大部分を担っている主演のリー・ジュンフォンの決してイケメン俳優という雰囲気ではないものの、
誠実そうな佇まいと、確かな武術の腕前、そして、貧しいながらも必死に家族のために努力を重ねていく、
というキャラクターが、地味でしょうがないぐらいに地味なのに、いつのまにか感情移入してしまっている、
という近年の配信専用中国作品とは真逆の魅力によって、作品の良さが引き出されていると思われます。
そんな武術一家が、街で腕前を披露していたところ、近隣の腕っぷしの強い若き武術家が、縄張りを荒らした、として喧嘩を吹っ掛けてきます。
争い事を好まない主人公のトンは、なんとか収めようとしますが、どうしても相手が引いてくれず、結局戦う事になってしまいます。
で、勿論圧倒するのですが、その直後に、打ちのめされたその武術家の町道場の師匠ハーターハイがやって来て、トンに挑戦してきます。
で、トンは、なんとか、事を荒立てないようにしようとしますが、当然ハーターハイにも勝負を挑まれます。
しかし、このまま自身の実力を出してハーターハイをやっつけてしまっては、ハーターハイもメンツが立たない、という事を察知して、
皆には分からないように、わざと手を抜いて負けて、試合を終わらせます。
なんとか、その場は収まり、一家はその場を退散しますが、トンが、『バンッ!』と足を踏ん張った時に、下に引いている縁石がバキッと割れている惨状に気付いたハーターハイは、
トンの本当の実力と、本当の人間性、そして、逆に自身の未熟さに気付いていきます。
で、その後やたらとトンに絡んでくるように見えて、実は、トンの人間性に惚れて、本当の友情関係を結んでいく、
という悪人として登場しながらも、実は狭義心に熱い、心根の優しい人物だという事が後半になって分かっていきます。
こういう展開も近年の配信専用の中国作品のように、善人として登場しておきながら、後半になって裏切りの連続のドロドロ展開、
という観ていてげんなりするような物語展開とは真逆の展開で、観れば観る程、登場人物の魅力にハマっていく、という熱い展開の作品となっています。
で、そんな中、街では中国政府のお墨付きの興行師が主催するレスリング試合に、ロシアからチャンピオン、ダダロフがやって来て、
中国人の武術家を圧倒し、馬鹿にして見下し、
ブルース・リーの(ドラゴン怒りの鉄拳)でも描かれた様に、【東亜病夫】呼ばわりして、蔑んでいきます。
で、中国人のカンフーの達人を招いて次々と撃破していき、たまりかねたハーターハイが、ダダロフに挑戦し、なんとか勝利をもぎ取るものの、
その帰り道に闇討ちに合って瀕死の重傷を負う、という卑劣な手段で、傷つけられてしまいます。
で、既に信頼関係を築いているトンにハーターハイが自身の道場の館長を頼む事で、最終決戦に挑むという流れになっていきます。
という事で、貧しい一家の日常を描く前半から、街道場の師匠に勝負を挑まれ、圧倒するも、相手の面子を気遣い、
そこで信頼関係が生まれて、親友同士となり、街で横暴を極める外国人格闘家と師匠が勝負し、傷つき、その無念を晴らすため、中国人の誇りのために異種格闘試合に挑む、
という(イップマン)の1作目と2作目の基本のストーリー、ほとんどそのまま、下手したらリメイクレベルにそっくりな作品となっています。
(ドラゴン怒りの鉄拳)以降、ユエン・ウーピン監督の(激突!キング・オブ・カンフー)(詳しくはこちら)や、ジェット・リーの(スピリット)等、
同じような流れの作品は多いですが、本作と(イップマン)程、そっくりな作品はないのではないでしょうか。
そう考えると、ドニーが演じたイップマンも本作のリー・ジュンフォンが演じたトンというキャラクターとなんとなく似ているような気がしてきます。
容姿は全く似ていませんが。
という事で、本作と(イップマン)、全然違うイメージの作品に思えますが、実際鑑賞してみると、鑑賞後になんとなく心のどこかに確かに残る(熱さ)は、
同じ要素を持っている作品とは言えますので、(イップマン)好きの方や、カンフー映画好きの方等ご鑑賞されてみてはいかがでしょうか。
カンフー映画好きなのに、VHSジャケット等からのイメージで、敬遠していた方等は、鑑賞しないままなのはもったいないですよ。
作品情報
1983年製作 中国製作 カンフーアクション
監督 チョン・ホワチャン
出演 リー・ジュンフォン、ジ・チュンヤン
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